かくて乙女は沼に眠りぬ

ハッピー沼底ライフ 

読書感想文 流星の絆

 

先日、職場の友人とお昼ご飯を食べたあと、ブックオフに立ち寄って、お勧めしてもらった小説を買った。

 

東野圭吾の「流星の絆」という作品だ。

 

 

 

 

 

参考程度に本の裏表紙の内容紹介を抜粋し載せておく。

 

 

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何者かに両親を惨殺された三兄妹は、流れ星に仇討ちを誓う。14年後、互いのことだけを信じ、世間を敵視しながら生きる彼らの前に、犯人を突き止める最初で最後の機会が訪れる。三人で完璧に仕掛けたはずの復讐計画。その最大の誤算は、妹の恋心だった。

 

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私は小説といえばもっぱら江國香織山本文緒唯川恵などの少女小説、恋愛小説を好んで読み、こういったミステリ?サスペンス?というジャンルはほとんど手をつけたことがない。

東野圭吾の名前はよく聞くけれど、読もうと思ったことはなかった。

映画化されている作品が多いことからも、よく練られた物語を書く人なんだろうということはわかるが、私はハラハラドキドキする展開や推理、伏線回収の面白さなどより、ありふれた日々を切り取った、人の心の機微を描くものの方が基本的に好きなのだ。

 

そんな私が流星の絆を読んだ感想だが、端的に述べて非常に面白かった。なんて中身のない感想だと自分でも思うが、読了後に真っ先に浮かんだ言葉なので仕方ない。

 

 

内容以前に、なんというか、とにかく読みやすかった。

難しい言い回しや回りくどい表現がなく、すらすら読み進めることができる。読書が苦手な人でも読み易いだろうなと感じた。

文章に無駄がなくテンポが良い。次から次へと展開していくので、どんどん読み進んで物語に没入していく。

これはたしかに、幅広い層に支持されるだろうと実感した。

 

内容についても、散りばめられた伏線を綺麗に回収していく様が見事だった。

正直、「衝撃の真相」というほどではなかったように感じるが、終盤まで真実に気付かせず、「あの時のあれはそういうことだったのか」と最後にすべて納得させてくれる手腕は素晴らしかった。

 

 

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この作品には、殺人や詐欺、窃盗といった「悪事」は出てくるが、「悪人」は出てこない。

それが、読了後のなんともいえないやるせなさ、切なさを煽る。

 

両親を殺された三兄妹は、預けられた施設を出たあと、理不尽な世間を厭い、詐欺集団になる。

自分たちだけが酷い目に遭うなんておかしい、奪われたなら、自分たちもまた別の人間から奪ってやろう、と。

 

そうして、頭の切れる長男は情報収集と作戦の立案、芝居の上手い次男と美人の妹が実行役となり、ターゲットを騙して金銭を巻き上げていく。

序盤では両親を失った同情すべき悲壮な兄妹であった彼らは、一転して犯罪者となるのだ。

 

しかし、彼らは「悪人」ではない。

失い、傷付き、守るべきものを守るため、強く生きるために罪を犯すことを決めただけの、ただの人間だ。

そして彼らの両親を殺した人物もまた、読み終えてみれば、ただの人間だった。

 

 

人間を、二元的に語ることは難しい。

悪いことをする人間は悪人だと言い切れてしまえば簡単だが、物事には道程があり背景がある。

悪事は悪事、それはたしかに罰されるべきことだが、人の心はそう簡単に断じられるものではない。

人を騙す人間、人を殺す人間に、誰かを愛する心がないわけではない。

愛しているから、守りたいものがあるから、罪を犯すこともある。

 

読み終えてみれば、そこには様々な想いを抱えた人間たちがいるだけだったとわかる。

そしてそれぞれが、それぞれのやり方で犯した罪と向き合っていた。

誰かを想い、赦し赦され、前を向いて歩き出す。

切なく、やるせない気持ちの中に、希望を残してくれる結末は、なんともいえない満足感を与えてくれた。

 

単純に、読んで良かったなと思える作品だった。

これはたしかに映画化なりドラマ化なりされるだろうという、よくできたヒューマンドラマだった。

 

 

 

 

ただまあ個人的には、あまりにもドラマチックだったので、もう少し日常的な作品の方がやはり好ましいなと思う。

ハラハラドキドキするのも楽しいけれど、指先の動きひとつを切り取るような、ささやかな感傷を丁寧になぞるような作品が良い。

解決することよりも、解決しないままどう生きるかを描く方が好みだ。

この辺は本当に個人の好みの問題であって、十二分に面白かったが。

 

 

また東野圭吾の作品を読みたいと思う。