かくて乙女は沼に眠りぬ

ハッピー沼底ライフ 

読書感想文 小指物語

 

 

 

 

初めて読んだのはいつだったかもう覚えていないが、私はずいぶん前に一度、この作品を読んでいる。

携帯で、どこかのサイトに掲載されていたのを読んだのだ。(モ◯ゲーとかだったかもしれない)

その時受けた衝撃や、感じた得体の知れない恐怖は、十数年経った今でも脳にこびりついている。

 

書籍になっていることを知ったのはわりと最近で、ツイッターでたまたま流れてきたそのタイトルを見て、強烈なインパクトと共にその存在を思い出した。

 

そして、かつては奇妙で不可解で、衝撃ばかりが強かったこの作品を、大人になった今の私はどう受け取るんだろうかと気になった。

 

 

 

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指物語は、ものすごく端的に言うと「自殺の話」だ。

 

これだけ聞くとなんとも不謹慎な感じがするが、実際は私たちが思い描くような単純な話ではない。

 

裏表紙の作品紹介には、こう書いてある。

 

 

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素敵な自殺方法を考えないかい?

 

ーーー屋上から飛び降りる寸前、僕は小指の曲がった謎の男と出会った。ネットで評判の「自殺屋」らしい。彼に導かれ、自殺志願者たちの最期を見届けることに。一体、なぜ?生きるための死とは?男の正体は?やがて、辿り着く驚愕の結末ーーー

 

あなたの生きる希望が湧き上がる鮮烈サスペンス

「自分にしかできないこと。そのために命を使おう」

 

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この作品の主な登場人物として、自殺志願者の青年・ミサキ(俗物くん)と、奇妙な価値観と倫理観を持つ謎の男・小指がいる。

 

 

ある時、屋上から身を投げようと考えていたミサキは、奇妙な男と出会う。

 

「君も私も、五秒前に出来たと仮定してみようか」

 

この世界も自分の記憶も、五秒前、偶然すべての原子が現在の形に並んでできたものかもしれない。

それを今の科学で否定することはできない。

そんな世界で生きようと死のうと、その程度のもの。

そんなつまらない世界で、少しくらい遊び心を持たなかったらやってられないじゃないか。

 

「私と一緒に考えないかい?面白い自殺について」

 

純粋な目をしたその男は、右手の小指が奇妙に曲がっていたため、ミサキは彼を「小指」と呼んだ。

 

小指はミサキに「俗物くん」とあだ名をつけ、自殺屋の仕事を手伝わせながら、様々な人の、様々な形の「自殺」を見届ける。

 

 

 

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この作品に出てくる自殺は大まかに4つ。

 

・死なない自殺

・生きるための自殺

・生きるためでも死ぬためでもない自殺

・生きるための死なない自殺

 

 

これだけでは何が何やらわからないかもしれないが、読み終えてみるとそうとしか言いようがないなと思える。

 

個人的には、生きるための自殺がかなり好きで、昔読んだ時の記憶も大半がこの章のものだった。

 

Kという女性が運営する、常に休診中の精神病院と、そこに集まる奇妙で優しい人たちの、「生きるため」の話。

 

登場人物で特に好きなのは、「空が痒い」と言って窓を掻きむしるガリガリくんと、1を1億回足すと本当に1億になるのかを調べるために、何年も1を足し続けている検算くんだ。

彼らは狂っているのかもしれないし、彼ら以外のすべてが狂っているのかもしれない。それは誰にもわからない。

彼らと彼ら以外の人々にあるのは、マイノリティかマジョリティかの差であって、どちらが正常でどちらが異常なのかを判断する術はない。

 

ただひとつ言えるのは、彼らにとっては全て事実で、現実であるということだ。

 

彼らはお互いを受け止め合い、この世界で生きるために自殺を決行する。

優しくて、少し悲しくて寂しいけれど、幸福な話だ。

 

 

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生きているとはどういうことだろうか。

死とはなんだろうか。

私たちはいつこの世に存在を始め、そしていつ、この世に存在しなくなるのだろう。

 

 

小指は言う。

 

「私たちはずっと前から生き続けているし、ずっと死に続けている」

「君は生まれていないし、ずっと死んでいたんだ」

 

 

これだけでは本当に意味がわからない。

作中の小指の長ったらしい解説を聞いたあとでも、読む人によっては単なる強引なこじつけだ、詭弁だと感じるかもしれない。厨二病と一蹴するのも簡単だ。それくらいめちゃくちゃなことを小指は言っている。

 

けれど、命について考えるための足掛かりにはなり得るかもしれない。

くだらない、意味がない考えだと笑わずに、まずは小指のように純粋な目と心で受け入れてみると、見えてくるものがある、かもしれない。

 

 

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先程少し検索してみたら、魔法のiらんどというサイトで、小指物語の冒頭と、書籍化されていない部分の話が読めるようになっていた。

 

昔読んだ時よりもずいぶんボリュームがないなと感じていたが、何話か載せられていなかったせいだったのだと合点がいった。

 

あとで読みに行こうと思う。すべて読んでこそ小指物語だ。

 

 

 

初めて読んだあの頃と今とで、どれほど感じ方が変わっているだろうかと思って読み始めたけれど、そこまで大きな変化はなかったかもしれない。

奇妙だとしか思えなかった小指に対してなんとなく可愛らしさを感じるようになっていた程度で、この作品が持つ強烈で、むちゃくちゃで、けれど懸命で切実な主張には、やはり当時と同じくグッと引き込まれる感覚があった。

 

 

 

指物語の著者、二宮敦人がまだ@と名乗っていた頃、もうひとつ読んでいた作品がある。「!」という短編集だ。

指物語を読んだ流れで存在を思い出してしまったので、その勢いのままAmazonで注文した。

 

明日には届くので、また読んで感想を書こうと思う。

 

別に読書感想文を書くためにこのブログ作ったんじゃないけど…感じたことや考えたことを書き出すのは、今にとっても後々の自分にとっても良いことのように思うので、今後とも、書きたいと思ううちは書いていこうと思う。